正しい方法で安全な治療を!糖尿病の運動療法の基本

正しい方法で安全な治療を!糖尿病の運動療法の基本

糖尿病の治療において、食事療法と運動療法が基本です。適切な運動療法によって、血糖値やコレステロール値、血圧が下がり、健康寿命が延び生活の質が改善することが明らかとなっています。しかし、ガイドラインに準じた運動療法を行っている患者さんは全体の約30%にとどまっており、運動療法に対する注目度は決して高いとはいえません。

忙しい日々の中、運動する時間と場所がない、というのが大きな原因かもしれませんが、健康に良い運動療法のイメージをぱっと思い浮かべることができない患者さんも多いのではないでしょうか。「一日一万歩以上、よく歩きましょう。」というアドバイスしかできない医師側の責任もあると思います。

糖尿病の新しい運動療法は次々と考案されていますが、本稿では糖尿病(原則として生活習慣の悪化が原因となる2型糖尿病)の運動療法の基本について概要をご説明いたします。

運動とは?

運動は、「身体活動のうち、体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施するもの」と定義されます。意識的にからだを動かすことです。これに対して、身体活動には運動以外に生活活動(Non-exercise activity thermogenesis:運動以外の身体活動。家事や通勤、仕事中の活動など生活の中で意図せず行う動作)も含まれています。生活活動も、糖尿病との関連が示唆されていますが、ここでは詳しく述べず、次の機会にお話ししようと思います。

運動の4つの要素

運動は、強度・頻度・時間・期間の4つの要素から成り立っています。

このうち少しわかりにくいのが強度です。これは、運動のきつさ・負荷を表しています。いくつか指標がありますが、

・低強度=とても楽な運動
・中強度=楽な〜ややきつく感じる運動
・高強度=きつい、息が上がってしまうような運動
というように考えていただければ良いと思います。

運動の種類

また、運動は大きくランニングやサイクリングなどの有酸素運動とスクワットや腕立て伏せなどの筋力トレーニングの2つに分類されます。いずれも糖尿病の運動療法として有効ですが、有酸素運動は筋力トレーニングと比べ、HbA1c(糖尿病の治療の指標、1〜2ヶ月間の血糖値の平均を示す)を0.18%、より大きく低下させると報告されています。

運動の効果

運動の効果

血糖値を下げる

運動をした後に筋肉での糖代謝(食事として摂取した糖分を、エネルギーに変えるはたらき)が高まり血糖値が下がる急性効果と、運動を継続することによって長期的に血糖コントロールが良くなる慢性効果の2つがあります。

運動の効果は運動後約3日で低下・消失してしまうため、継続することがとても重要です。定期的な運動プログラムに参加することでHbA1cは0.67%下がります。また、食事療法との併用が必須です。運動の指導と食事療法を組み合わせた場合、HbA1cは0.43%下がりますが、運動の指導のみでは血糖コントロールは良くならないと報告されています。

血糖値以外の効果

血糖値以外にも運動の良い効果はいろいろと報告されています。

・中性脂肪が下がり善玉コレステロールが上がる
・収縮期血圧(“上の”血圧)を4.22 mmHg、拡張期血圧(“下の”血圧)を2.07 mmHg下げる
・有酸素運動を行うことによってQuality of Life(生活の質、幸福度や満足感)が向上する

糖尿病の治療は血糖値を下げることだけが目的ではありません。糖尿病による合併症の進行を抑え、健康な方と変わらない豊かな生活を送ることが目的です。運動は病気を治す薬ではありませんが、体と心に対して素晴らしい効果を持っています。

運動療法に関するガイドライン

日本糖尿病学会は、「できれば毎日、少なくとも週に3〜5回、中強度の有酸素運動を20〜60分間、一週間に合計150分以上行うこと」を推奨しています。さらに、有酸素運動に加え、週に2〜3回の筋力トレーニングを同時に行うことが勧められています。

実はこの運動療法の内容は、糖尿病ではない健康な方に推奨される運動の内容と大きく変わりません。進行した合併症(神経障害、網膜症、腎症、大血管症など)がない限り、糖尿病患者さんに求められる運動量はかなりの量となります。さらに、肥満のある患者さんの場合、ガイドラインで推奨される以上の有酸素運動を行うことが治療に効果的とされています。

そのため、初めからガイドラインで推奨される運動を行うのは大変です。先にも述べたように、運動は継続することで効果があるものなので、低い強度、少ない運動量から段階的に増やしていくことで、無理なく続けていくようにしましょう。

運動を行う上での注意点

運動を行う上での注意点

ある報告によれば、糖尿病患者さんは健常者の方と比較すると、身体活動レベルが低く、体力も低い傾向があるそうです。したがって、糖尿病のない方よりもケガをしやすく、運動によって逆に病状が悪化する可能性があるということを十分に認識しておかなくてはなりません。

「運動療法は副作用のない治療法である」というのは嘘です。まず、運動療法の禁忌や運動制限が必要な状況についてしっかりと理解しておきましょう。

運動療法の禁忌・運動制限が必要な場合

血糖コントロールが悪い場合

高血糖緊急症(糖尿病ケトアシドーシスおよび高血糖高浸透圧症候群:インスリンの作用が不足することで起こる症状。生命にかかわる場合もあり、適切な処置が必要な状態)の時は運動を行ってはいけません。具体的には血糖値250 mg/dlがひとつの基準と考えられます。

尿検査でケトン体が陽性の場合も運動は控えましょう。中強度以上の運動による各ホルモンの分泌により、血糖値上昇、血圧上昇の可能性があります。収縮期血圧180 mmHg以上の高血圧がある場合も運動は控えましょう。

合併症が進行している場合

例えば眼底出血のある網膜症や腎機能低下が明らかな腎症をお持ちの患者さんは、個別に医師に相談が必要です。ラジオ体操程度の運動は問題ないとされますが、合併症が進行した糖尿病患者さんにおける運動療法についてのエビデンスは不十分です。少なくとも高強度の運動は避けるべきでしょう。また、糖尿病による自律神経障害(体温や血圧の調節障害、低血糖に対する反応の低下など)が見られる患者さんも慎重に行いましょう。

心筋梗塞や不整脈など心疾患がある場合

急性期は当然、運動を行ってはいけません。慢性期であっても必ずメディカルチェックを受けて、運動療法が可能であるか心機能を評価してもらいましょう。

筋・骨格の疾患がある場合

変形性膝関節症や腰椎ヘルニアなど筋・骨格系のご病気をお持ちの患者さんは必ずしもガイドラインに準じた運動を行えるものではありません。言うまでもありませんが、痛みがある場合、運動は控えましょう。支持的な筋力トレーニングや水中ウォーキングが良いでしょう。

感染症のある場合

感染症の治療が第一です。糖尿病患者さんは特に、足の感染症(蜂窩織炎や足壊疽)に注意が必要です。日頃からよく自分の足を観察しましょう。

低血糖予防

インスリン注射や経口血糖降下薬の内服を行っている患者さんは、運動後の低血糖に注意が必要です。運動後しばらく時間が経ってから血糖値が下がることもありますので、運動前に1〜2単位(80〜160 kcal)の炭水化物を補食して低血糖を防ぎましょう。

ひとりひとりにあった運動を

運動療法の戦略は、患者さんの状態(糖尿病の合併症や併存疾患)と目標(血糖値をどこまで下げるか?体力を向上させるのか、維持するのか?)に応じて個別化するべきです。「一日一万歩」という目標は分かりやすいですが、そのような画一的な運動療法が万人にとって有効であるとは限りません。

たとえば、日本糖尿病学会のガイドラインでは筋力トレーニングの併用が推奨されていますが、その具体的な内容については明記されていません。負荷の強い筋力トレーニングは動脈硬化に悪影響を与える可能性があり、糖尿病患者さんへの運動処方では注意が必要です。

また、たとえ症状がなくても、狭心症・心筋梗塞や脳梗塞など心血管疾患のリスク(肥満、高血圧、高コレステロール血症、慢性腎臓病など)を複数お持ちの糖尿病患者さんは、運動療法を開始する前にきちんとメディカルチェックを受けてください。運動中の思わぬ事故を防ぐために大切なことです。

運動療法の有効性と限界についてよく知り、自分にとって最適な運動療法はどのようなものなのか、専門医に相談しましょう。

さいごに

運動療法は食事療法と並び糖尿病治療の二本柱のひとつです。“Exercise is medicine”と言われるように、運動はがん、狭心症や心筋梗塞、認知症、うつ病の予防・症状の改善にも有効です。多面的な効果が得られる運動療法は、糖尿病患者さんの血糖値を良くするにとどまらず、日々の生活を豊かなものにしてくれるはずです。運動の種目に制限はありません。自分の好きな運動を自分のペースで始めましょう。

筆者は糖尿病を専門とする医師ですが、患者さんに適切な運動療法を指導するだけではなく、患者さんと共に、その人に合った運動療法を行う医師でありたいと思っています。

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参照リンク

国立健康・栄養研究所 健康づくりのための運動指針2006
Physical Activity Guidelines